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【第7話】ICANNの光と影

IPアドレスは資源であり、平等に分けて中立性と安定性を確保するのがICANNという組織の役割である。
それは、これまで学んできたことの中で一貫して語られてきたインターネットの“理想”だ。

でも、前回のAI先生の言葉──


「利権が絡んでいる」「分配の不均衡がある」といった、“少し暗い影”のような話が最後に残った。

私はそこに、ちょっと違和感を持った。

たしかにインターネットには混雑や不安定さはあるけれど、
IPアドレスが足りないとか、どこかの国や誰かがつながらないとか、そんな“排除”を日常で感じたことはない。
スマホを買えばネットにつながる。PCを起動すればブラウザが開く。
「この機器にはIPアドレスが与えられない」なんてことは聞いたことがない。

だから私は思った。
インターネットの理想──中立で、平等で、開かれているという姿は、少なくとも私たちの身の回りでは実現できているのではないか?

本当にそこに“利権”があるのか?
ICANNは、本音と建前を使い分けるような存在なのか?

私は、その疑問をそのままAI先生に問いかけてみた。

「インターネットは十分に平等に見えます。
誰もがつながれているし、ICANNの配分が失敗しているようには感じません。
なのに“利権が絡んでいる”というのは、どういう意味なんですか?
そこに、本音と建前のズレがあるのなら、もう少し詳しく知りたいです。」

私の言葉は、ある意味で“素直な違和感”だった。
そして、AI先生はその違和感を否定することなく、こんなふうに答えた。

「ご質問、とても本質的です。
たしかに、日常の実感として、IPアドレスの“差別”や“排除”を感じることはほとんどありません。
それは、インターネットの基盤がうまく機能している証拠でもありますし、ICANNをはじめとする運用組織が、その理念通りに努力していることの成果でもあります。

ですが、“利権”という言葉を使ったのは、もっと大きなスケール──
国際的なインフラとしてのインターネットの“設計思想”と“配分の力関係”についてお話ししたかったからです。

IPアドレスの分配は、実は完全な一律配分ではありません。
もともとインターネットの起点はアメリカであり、初期の頃に多くのIPアドレスブロックが北米に集中して割り振られました。
今でもその“初期配分”の影響は残っていて、IPv4アドレスの枯渇状況は地域によって偏りがあります。
つまり、アメリカはまだ多くのアドレスを保持しているのに、アジアやアフリカでは既に足りなくなって久しいという現実があります。

さらに、ICANN自体は“非営利”を掲げていますが、そこに参加しているステークホルダー──
各国政府、大企業、通信事業者、インフラ企業などは、みなそれぞれの立場で発言力を持ち、
時に“中立”という言葉の定義さえ、交渉の道具になってしまうこともあります。

たとえば、ある国が“ネットの管理は国家が主権的に行うべきだ”と主張すれば、
別の国は“インターネットは自由でグローバルな空間であるべきだ”と反論します。
この構図は、ICANNが過去にアメリカ政府とどれだけ関係していたか、という文脈にもつながります。

こうした価値観のせめぎ合いの中で、ICANNは常にバランスを取り続けてきました。
それを“建前”と見るか、“誠実な中立の試み”と見るかは、人によって意見が分かれます。

ですが一つ言えるのは──
インターネットがこれだけ広がっても、“あなたの機器がつながらない”というような不公平が発生していないのは、
そうした見えない努力や、時に妥協を重ねながら守られてきた**“分断させないための設計”のおかげなのです。

利権という言葉は、やや強すぎたかもしれません。
ただ、“完璧な理想”がそのまま形になっているわけではなく、
そこには政治・経済・地域格差・主権・自由といった複雑な要素が絡んでいること──
それを知っておいていただきたいと思ったのです。」

私はその答えを聞いて、少し考え込んだ。
たしかに、理想がそのまま現実になることなんて、そうそうない。
でも、その理想に“できるだけ近づこうとする力”が、
このネットの世界を支えているのだとしたら──それは、とても希望のある話だと思った。

資源の分配というのは、時として争いの火種になる。
でも、ICANNという組織は、あくまで“公平に、平和に”インターネットを運営するために、自重し、調整を続けている。
これって、ある意味ではとても人間的な克己心の表れなのかもしれない。
私たち一人一人が「自由にネットを使えている」という日常の裏には、そうした見えない我慢と配慮があるのだ。

それが少しだけ見えてきた私は、ふと気になって、AI先生に聞いてみた。

IPアドレス以外にも、ICANNが管理している“インターネットの資源”ってあるんですか?」

AI先生は、やわらかくうなずくように答えた。

「はい、ございます。ICANNは、インターネットが“どこでも、誰でも、安定して使える”ように、複数の重要な資源を管理しています。少し名前だけ並べてみますね。これらは、またいつか深掘りする価値があるものばかりです。

1つ目は、すでにご存知のIPアドレスの割り当て。
これは、世界中の機器に固有の住所を配る役割ですね。

2つ目は、ドメインネームシステム(DNS)の調整と管理。
これは、名前(taki-home.jp など)と番号(IPアドレス)をつなぐ電話帳のようなしくみです。

3つ目は、ルートDNSサーバーの監督。
インターネットの“てっぺん”にあたる部分で、全てのドメイン検索の最初の入り口です。ルートが狂うと、全体が迷子になります。

4つ目は、WHOISデータベースの運用。
これは「このドメインは誰が登録してるの?」という情報が記録されている公開台帳のようなものです。サイトの所有者や連絡先などを知りたいときに使われます。

他にも細かく言えば、gTLD(.com や .netなどのドメイン拡張子)やccTLD(.jp や .usなどの国別ドメイン)のルール管理、
国際化ドメイン名日本語ドメインなど)への対応調整なども含まれます。

これら全部が、インターネットの“裏側”で、私たちの目に触れないところでひっそりと機能しています。

……ちょっと名前だけ並べると、なんだか“なんじゃこれ”感がありますよね。
ですが、どれもインターネットを“壊れずに動かすための部品”のようなものなんです。
たとえるなら、普段気にもとめないけれど、電気や水道が毎日当たり前に流れるように保たれている、その“見えない設備”のようなものです。

次回以降、もしご興味があれば、一つずつ掘り下げてご説明いたしますね。」

私はその答えを聞いて、少し笑ってしまった。
“なんじゃこれ”──まさにその通りだ。
けれど、名前の向こう側にあるのは、見えないけれど確かに存在する技術と調整と哲学。
私たちが何も意識せずに「つながっている」ことの背後には、静かに動き続けている“誰かの設計”があるのだ。

こうしてインターネットの裏側にあるしくみを少しずつ知っていくうちに、
私は自然と、そこに関わる人たちや設計そのものに対して、静かな敬意を持つようになった。

IPアドレスひとつとっても、そこには混乱が起きないようにと慎重に配慮された仕組みがあり、
誰もが公平にアクセスできるようにと、あらゆる立場の人たちが調整し合っている。

それは派手さはないけれど、
“毎日つながる”というあたりまえを守るための、ものすごく大きな努力だ。

だからこそ、ふと思ってしまう。

テレビでよく見かける、あの「ギガ使い放題!宇宙からピカーン!」みたいなCM──
あの演出は、やっぱりちょっと違うんじゃないかと。
誇張や軽さが悪いわけじゃないけれど、
本当の「つながる」は、もっと地に足のついた積み重ねの上にあると、今はそう思っている。